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あらゆるモノは、なにかを伝えるメディアに変わる

あらゆるモノは、なにかを伝えるメディアに変わる

梶原恵 / デザイナー
新島龍彦 / 造本家

十二期生

■情デで学んだことで役立ったことは何ですか?



■まずは、ふたりで作品づくりを始めたいきさつを教えてください


梶原:3年生の後期の授業で一緒になったことがきっかけです。ネットワークメディア応用がテーマの授業で、距離センサーや温度センサーを使って作品をつくることが課題でした。新島くんとは同じコースでしたが、話したことはあまりありませんでした。情報デザインコースでは、前期と後期の終了時に学内で展覧会を行います。そこで、同級生同士、お互いの作品を鑑賞することができます。新島くんは、本をモチーフにした作品が多かったですね。アルファベット型の本をつくっていたり、アイデアも斬新で。技巧派だなぁ、という印象を持っていました。


「授業で初めてつくった影絵絵本には、センサーの光を使ったんです」


新島:僕も梶原さんの作品にはいつも注目していました。イラストが美しいだけじゃなく、とても完成度が高かった。ここは手を抜いたのかな、と思う箇所がなく、十分に考えを練って、丁寧に制作している印象を受けました。課題作品についてのプラン発表の折、梶原さんも本をつくろうとしていることがわかって。僕は製本が得意だし、梶原さんはイラストなどのコンテンツが素晴らしいので、一緒につくればよりクオリティの高いものが出来るのではと声をかけました。


「電車内で本を読んでいる時に、影絵を使うアイデアを思いつきました」

■作品を通して認知しあっていたわけですね。『MOTION SILHOUETTE』はどのように誕生したのですか?


新島:現在販売されている『MOTION SILHOUETTE』は2代目にあたりますが、初めてつくった影絵の本は『Silhouette』というタイトルで、お話したセンサーを使った授業の課題として制作しました。自分は大学まで電車で通っていたのですが、通学中、座席に座って本を読んでいると、肩ごしに窓枠の影がページの上に落ちて動いていたんです。そこから、光と影という自然の環境的な要素を取り入れることで、今まで誰も見たことがない本がつくれるのでは? というアイデアが生まれました。籠の中にいた鳥が空を自由に飛ぶ鳥になったり、左右どちらのページに影が落ちるかで物語が変化するような内容にしようと話し合って、イラストも半分ずつ書くことに決めました。制作期間はのべ3カ月くらいです。

梶原:実は、初代『Silhouette』は、センサーの光による影絵絵本だったんです。机の上に距離センサーを仕込んだライトと本を固定していました。ページをめくるごとに、センサーが右ページ、左ページとの距離を判定し光のあて方を切り替えます。影絵に変化をつけるためです。そのプログラミングは私が担当しました。

新島:一番初めの作品が、ある種、一番ハイテクでした(笑)。ただし、誰かに見せる時には、机の前に人を呼ばなければならなかった。不便だな、もっと簡単に持ち運べないかなぁと思案しているうちに、スマホなどのちいさなライトを使うことを思いついて。

梶原:「これでじゅうぶんだよね」って (笑)。センサーが要だった作品が、急にアナログ化したわけです。

■その後、『MOTION SILHOUETTE』は『世界で最も美しい本コンクール(BEST BOOK DESIGN FROM ALL OVER THE WORLD)』で銅賞を受賞しましたね。


梶原:卒業後、入社した会社の方が、授業でつくった一冊目の『Silhouette』をご覧になって、ヒントをくださったんです。もっと影絵に動きが加われば面白いね、と言われました。そこで、新島くんと、影絵をもっとアニメーションの様に楽しんでもらえるよう、動きが際立つモチーフに絞って新たにページ構成を考えました。タイトルも『MOTION SILHOUETTE』に変えて、卒業した年の2013年の秋頃から制作を始めました。

新島 結局、足かけ半年ほどかけて、最終形に仕上げました。せっかくなので、本のコンクールに出してみようかということになり、日本書籍出版協会が主催している『造本装幀コンクール』に応募したんです。そのコンクールで幸運にも賞を取ったことで、国際的な『世界で最も美しい本コンクール』への出品が決まりました。


MOTION SILHOUETTE


ライトを当てることで影が動き出す


梶原:それが2014年の春頃でしたね。ちょうどその頃、WEBサイトに映像をアップしました。映像は同級生の林響太朗くんが制作してくれました。すると、FacebookやTwitter、TumblrなどSNSを通してあっという間に世界中に拡散し、海外から多くの問い合わせメールが届くようになったんです。短期間で100通ほど届きました。



新島:たった1冊の手づくり本に注文が入るようになり、予想外の反響にびっくりしました。あわててサイト上にWEBショップのようなものを開設し、オーダーを受けつけるようにしました。

梶原:私は窓口担当でしたが、一冊一冊、手作りしたものを配送したので、製本する新島くんが大変だったと思います。さらに嬉しいことに、翌年2015年には、『世界で最も美しい本コンクール』での受賞が決まりました。

新島:30カ国計585点の応募作品の中から14点が受賞作品として選ばれました。その年の2月にドイツのライプツィヒで行われた授賞式には、ふたりで出席しました。会場には世界中の本が一同に展示されていたので、アジアとヨーロッパのブックデザインの違いなどを肌で感じられて面白かったですね。また、国際的な授賞式とはいえ、いわゆる格式ばった式ではなかったので、スーツで列席した身が少し気恥ずかしくなるほど、和やかな雰囲気に包まれていたことも印象に残っています。今振り返っても、本当に目まぐるしい一年でした。

■話は戻りますが、卒業制作についても聞かせてください


梶原:情報デザインコースでは、学生は一年間をかけて、卒業研究制作に取り組みます。私は、象形文字を成り立ちの意味ごとに分け、パズルのように組み替えて漢字を生み出す『漢字ピクトグラム』という作品を制作しました。漢字の構成要素はそもそも絵から始まっていますが、言葉の意味自体を簡潔、的確に表している点に興味を持っていたからです。組み合わせるパーツ自体に意味があるので、いろいろ組み合わせて新しい文字をつくることもできますし、単純に知育コンテンツとしても楽しめるような作品に仕上がったと思います。


梶原さんの卒業研究制作『漢字ピクトグラム』


新島:僕は「朗読」をテーマにした作品づくりに取り組みました。たまたまYoutubeで目にした、朗読の映像が衝撃的だったからです。宮沢賢治の詩を朗読していたんですが、朗読というよりほぼ叫んでいるくらいの激しさで(笑)。黙読によって頭の中に流れていた言葉の運び方、テンポなどとはまったく違ったんです。その温度差に惹きつけられました。そこから、そもそも朗読と読書の違いってなんだろう、という深堀りが始まり、『黙読の声』というテーマで数冊の実験的な本を制作しました。その中の一冊では、詩や文章などの朗読の音声をiPodに録音し、本の片側に埋め込んだんです。いわゆるオーディオブックですが、文字組や書体との関連性をもたせて、黙読や朗読についての考察や発見を得られるような仕掛けにしました。試行錯誤しながら、一年間ゆっくりひとつの作品に向き合えたのは、今振り返ると贅沢な経験だったかもしれません。


新島さんの卒業研究制作『黙読の声』

■情デ時代の一番の思い出を聞かせてください。


梶原:3年生の時に参加した産学協同のプロジェクトです。ネスレさんの人気商品『キットカット』のパッケージ開発を行いました。情報デザインコースの学生だけではなく、プロダクトデザイン専攻、メディア芸術コースの学生が集まって、それぞれ意見を出し合いながらアイデアをブラッシュアップしました。実は、他の学科の学生とコラボレートしたのは、その授業が初めてでした。他学科の学生のクリエーションを目の当たりにして、とても触発されたことを覚えています。私たちのコースは、いろいろな媒体を用いるので総合的なスキルは身につきますが、プロダクトデザインやメディア芸術の学生は、もっと限定したメディアのみを扱っているので、やはり作り込みの精度が高いように感じました。そのプロジェックトで企業の方にもプレゼンする機会があり、学外のプロフェッショナルな方たちと接触できたことも、いい刺激になりましたね。視野が広がったような気がします。

新島:学外展示の活動が一番の思い出です。毎年、情報デザインコースの学生作品を出品する展覧会が開催されるのですが、その設営スタッフとして参加していました。その時ご一緒していた担当の先生から、モノづくりに対する情熱のようなものを教わったような気がします。3年次、最後の展覧会の準備は一番大変で、スタッフ誰もが泊まり込みで作業をしていました。ある晩、交替で休憩を取って現場に戻ってみると、先生が一心不乱に作業を続けていて。後輩が思わず「手伝いますよ、その台は僕が仕上げましょうか」と声をかけたんです。ところがハッとする答えが返ってきました。「いや、それは俺のデザートだから取っといて」。デザート? つまり最後のお楽しみ、ということですよね。ああ、先生はめちゃくちゃ疲れていてもまだ「つくりたい」というエネルギーが残っているんだ。瞬間的にそう思いました。だから、自分自身もどんなに追い詰められた状況でも、楽しんでモノをつくる人間でいたいな、と。その言葉は、切羽詰った折に、よく思い出すようにしています。


■そういった制作や授業を通して、情デで学んだことで、一番役立ったことは何ですか?


梶原:なぜ情報デザインコースを選んだかと言うと、知り合いがすでにこのコースで学んでいたので、事前に授業の内容をヒアリングすることが出来たからです。グラフィックだけではなく、展覧会などのイベント、WEB、音声、映像、プロダクツ等々、いろいろな手段を使って表現方法を学べる点が面白そうだな、と感じました。実際に入学してみて、本当に多種多様な媒体を使っての授業を受けることになりました。その経験は、社会に出てから実際に仕事をするようになって、とても役に立っていると実感しています。各メディアの特性をおのずと理解することが出来たからです。この情報ならこのメディアがぴったり合うな。そんな風に伝えたい情報とメディアを上手に組み合わせられる、マッチング能力のようなものが備わったように思います。



新島:自分は情報デザインコースについてあまり予備知識がないまま入学したタイプかもしれません。入学前から、ぼんやりと本づくりに携わりたいという思いはありましたが、では、なにをどういう風に学べばいいのか、という具体的な道筋は見えていませんでした。結果的に、いろいろな媒体を使ってアプローチする手法を知ったことで、多角的にモノを見る目が養われたような気がします。伝えたいことが、平面上のグラフィックでは収まらないなと感じた時、他の手法で試してみようと考えるようになりました。センサーを使った授業によって光への関心を喚起させられたりと、あらゆる角度からボタンを押されたので、モノをつくるための引き出しが確実に増えたと思います。


■今後、クリエイションを通してどのような活動を行っていきたいですか?


梶原:私は現在、デザイナーとして仕事をする傍らで、個人制作として絵本づくりを続けています。これからも自分の想いを追究する創作活動と、デザイナーとしての仕事を両軸に活動していきたいと思っています。今後、人工知能によって、特別なスキルを持たなくても誰もが自由にデザインを生み出せる時代が来るかもしれません。でも人工知能がいくらデザインの最適解を示したとしても、最後に判断するのは人間だと思います。美しいとか、機能的であるとか、デザインの質を見極められるかどうかは、私たちに委ねられていると思うので、そのために、一人のデザイナーとしてより良いデザインを発信し続けていきたいと思っています。



新島:僕は現在、製本会社に在籍しています。手作業でしか完成できない仕様の本を数十部から数千部の単位で作業する部署で働きながら、個人制作で非常に部数の少ない本の製本や一点ものの箱をつくったりしています。まだ誰も手に取ったことのないような本を生み出せるよう、表現領域を広げるための手法を、日々模索しています。将来の自分を想像するとすれば、やっぱり、ただ黙々と純粋に本づくりに向き合っているような気がします。本の未来がどうなるかは、みなさん、意見が分かれると思いますが、紙の本はどんどん電子書籍に取って代わられていくことは間違いありません。そうなったとしても、自分は本をつくっていたい。どんなに時代が変わっても価値を持ち続ける本をつくりたいですし、紙がなくなってしまったら、自分で和紙をすいてでも、本づくりの環境を確保したいです。僕は本の手触りや形そのものに惹かれてきましたが、デジタルデバイスで読む感覚と紙の本で読む感覚にも大きな違いがあると感じています。今後、デジダルデバイスにしか触れたことのない世代が育ってきたとしても、紙の本のよさが伝わるような本づくりを目指していきたいです。


■では、情報デザインコースを一言で表すと何でしょう?


梶原:いろいろな情報を適材適所のメディアに振り分けられる、編集力が身につくコースです。

新島:あらゆるモノを使って、伝える力を学べるコースです。

■最後に、来年度からの入学生に向けてメッセージをいただけますか?


梶原:この取材の前に、新島くんと多摩美時代を振り返るうち、そういえば、入試の問題が楽しかったね、という思い出話になって。たしか「15年後の冷蔵庫の中身を描きなさい」という課題だったと思います。

新島:冷蔵庫の中身で、その人がどういう人生、毎日を送っているかってわかりますよね。そこから未来の自分像を描きなさい、という意図だったように受け止めたんですが......「未来の自分について描きなさい」という型どおりのアプローチではなく、「冷蔵庫を使って」という切り口が面白かった。

梶原:どんなモノでも発想ひとつで、自分を表現するメディア、媒体になる。という情報デザインコースでの学びの本質をついていたように感じます。

新島:今振り返ったからこそ、初めてその狙いがわかったような気がするだけかもしれません。でも、入試の問題を素直に楽しいと感じた人は、間違いなくこのコースに向いていると言い切れます(笑)。



Text / Mayuko Kishiue
Movie / Kyotaro Hayashi, Yuna Miyazaki
Music / Hideyuki Hashimoto
Photo / Haruhi Hashimoto, Risa Sakemoto