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メディアアートの教科書

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Photography

写真

記憶と経験の可視化

情報から記憶へ
港 千尋|Chihiro Minato

  私たちが普段なにげなく使っている情報という言葉。世界経済の情報から個人情報まで、さまざまな種類があるが、それらには共通する点がある。まず情報は常に何かについての情報であるということ。二番目に情報はたいてい記録され複製されるということ。三番目にネット社会と言われる今日、記録された情報は、リアルタイムに流通するということ。画像や音声、テキストとあらゆる情報は、複製されるとともに流通する。

 こうした記録にくらべると、記憶はいい加減である。人間はときに間違って覚えたり、せっかく覚えたことを思い出せなかったり、完全に忘れてしまったりする。脳はその時々の身体の状態にも影響を受けるし、感覚や感情とも密接に関係している。嬉しかったり悲しかった出来事は、たいてい強く記憶されている。何年も会わずに忘れていた友人が、とつぜん夢にでてくることもある。記憶は確かに過去のことだが、それが常に現在形で現れるところに記憶の不思議さがある。

 脳のなかに蓄えられた情報は、想像力の助けをかりて、さまざまなイメージとなっている。記憶とは姿を変えながら生きる、このイメージのことなのだ。そしてイメージこそが、芸術的な創造の核心をなしている。記憶はモノを正確に思い出すためだけにあるのではない。過去と対話しながら、現在を見つめ、生み出された新たなかたちを未来へ手渡すための、創造の力なのだ。

Text Book

night seams

土田 祐介

《2004年度 卒業》
何本もの街灯を同じ構図で撮影し、重なり合うようにスライドさせていく。街灯の光は動かず、周囲の光景だけが移りゆくような不思議な錯覚と時空のひろがりを感じさせる作品。
〔無音作品〕

Artist Web

新山水

小倉 礼子

《2011年度 卒業》
コンクリートで作られた動物園のハリボテの猿山の写真をデジタル・コラージュの手法でつなぎ合わせた壮大な山水画。
〔無音作品〕

lights

金 瑞姫

《2009年度 卒業》
<第3回「1_WALL」グランプリ>
事件性のない日常をモチーフに 人々の部屋に廻り込む光が立ち上げる空間の感触を捉えた銀塩プリント写真作品。
〔無音作品〕

inner blue

西村 伊央

《2006年度 卒業》
<第13回学生CGコンテスト 特別賞>
<2007年 Asia Digital Art Awards 静止画部門 入賞(カテゴリーB)>

クローズアップで撮影された水の写真。それぞれのイメージは流動的な水の表情を捉えている。それらが相互の関係性を結び3メートルを超える壁面となり見る者を取り囲む。
〔無音作品〕

Artist Web

Tamabi idd Art & Media Program「メディアアートの教科書」
多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース作品集
COPYRIGHT © IDDLAB. SOME RIGHTS RESERVED 2014.

ポラロイドの色彩は独特の郷愁を帯びる。メディアの形式も記憶の一部である。 港 千尋『旅の記憶・記憶のパレット』(2012年)より

グラフィティ

表現の場所は、いまや美術館やギャラリーを抜け出てインターネット空間にも都市空間にも見つけることがで きる。グラフィティは国境を越えたアートムーブメントとなり現代都市の記憶の風景をなしている。(写真:港千尋)

アジア最初の活版活字を現在につたえる日星鋳字行(台北)の制作による活字組み版
港千尋《文字の母たち》展(台北2010年)より

パリ国立印刷所に保管される初期の金属活字

グーテンベルグによる活版印刷の発明は文字情報の大量複製を可能にし、近代社会の基礎を築くことになった。(写真:港千尋)

降伏論
三品 和貴子
2009年度 多摩美術大学 情報デザイン学科
メディア芸術コース 卒業制作作品

「阿呆」をテーマにした5本の短編連絡アニメーション。 アニメーション、及び音楽とも作者がひとりで制作している。 その作業から生