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メディアアートの教科書

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Performing Arts
& Sound Art

パフォーミングアーツ
とサウンドアート

身体と音響の表現

メディアとしての身体 ― パフォーミング・アーツ
佐々木 成明|Naruaki Sasaki

 パフォーミング・アーツとは、身体を作品の構成要素として取り上げる、あるいは人間の「動き」を作品の構成要素に組み入れた芸術の様式である。
 ヘルマン・ニッチュヨゼフ・ボイスたちの作品が登場した1960年代からパフォーマンスという言葉が使われ始めた。ボイスは論理的な人間の理性の部分ではなく、より原始的で直観的な人間の感性にダイレクトに訴えて、受け手にイメージを喚起する手段として、パフォーマンスを繰り返し行った。観客の前で上演するのではなく、マシュー・バーニーや、シンディ・シャーマンのような写真とビデオの記録、ジャクソン・ポロックのアクション・ペインティング絵画なども、広義的にパフォーマンスの要素を持っている。
 パフォーミング・アーツは一般的に演劇やダンスなどの舞台芸術や音楽の表現も含んでいる。人類史の初期段階で、他人や動物のものまねを見て楽しむ者が現れた時から演劇が誕生したと推測できる。演劇は観客に物語を提示して、なにかしらの理解と感覚を生み出す芸術である。
 演じられた模倣を事実として見る者に捉えさせる演劇は、20世紀を通して映画のスクリーンに置き換えられた。そして現代では、仮想現実(ヴァーチャル・リアリティ)の技術や、インタラクティヴなゲームによって、観客自らが舞台上で主役を演じている。
 さらに、音楽の演奏もパフォーマンスのひとつに含まれる。DJやラップトップ・ミュージックの演奏も、テクノロジーが生み出した新たなパフォーマンスである。

 パフォーミング・アーツは人類の歴史と深く結びつきをもっている。舞台演劇における人間の所作から、映像により記録された身体、さらにテクノロ ジーによって拡張された新たな知覚する身体、演奏する身体。パフォーミング・アーツは、いまも拡張され続ける芸術様式なのだ。

音響表現 ― サウンド・アートの拡がり
久保田 晃弘|Akihiro Kubota

 イタリア未来派の画家ルイジ・ルッソロは、1913年に「雑音芸術宣言」を発表した。1952年にアメリカの作曲家ジョン・ケージは、ロバート・ラウシェンバーグの『ホワイト・ペインティング』に触発されて、『4分33秒』という無音の曲を初演した。「聴く」という人間にとって必要不可欠な行為や意識、そこから生れた20世紀の音響表現は、この騒音(ノイズ)と無音(サイレンス)の狭間から、視覚表現や物質(物体)を主とする美術とも密接に関連しながら、広くサウンド・アートの呼称で多様な展開を繰り広げた。

 動きによって音を発生するキネティック・アートの一種としての音響彫刻や、発振器や変調器などのテクノロジーを用いた電子音楽、そして音と映像をシンクロさせたオーディオビジュアル・アートなど、美術と音楽の境界を乗り越えようとするサウンド・アートは、インスタレーションやパフォーマンスを含むさまざまなジャンルを横断する、クロス・カルチュラル(文化横断的)な表現のひとつの象徴ともなった。同時に、80年代半ば以降のCDの普及とDJによるアナログ・レコードの復活、90年代における音楽のネットワーク配信と著作権問題の顕在化、今日のiPhoneやAndroid携帯による音楽のアプリケーション配信など、音をめぐるテクノロジーは、そこから派生するさまざまな社会問題とも深くかかわってきた。

 90年代後半以降のコンピューターの急速な小型化と高性能化は、ラップトップ・パフォーマンスという新たなオーディオビジュアル・パフォーマンスのスタイルを可能にした。インターネットを活用したネット・パフォーマンスや、多様な電子回路やインターフェイス・デバイスを駆使した自作楽器、既存の玩具や回路を改造するサーキット・ベンディングハードウェア・ハッキング、リアルタイムにプログラミングを行いながらパフォーマンスを行うライブ・コーディングなど、今日のサウンド・アートはクロス・カルチュラルな拡がりのみならず、新たなテクノロジーを活用したアート表現の見本市さながらの活況を呈している。

Text Book

Text Book

Braun Tube Jazz Band

和田 永

《2009年度 卒業》
<第13回文化庁メディア芸術祭 優秀賞>
複数の古いブラウン管テレビとPC制御したビデオデッキを 音階の数に並べて打楽器を制作しブラウン管を叩くパフォーマンス作品

Artist Web

The Three Straw Band

朝倉 卓也

《2010年度 卒業》
誰でも弾ける楽器ではなく、あえて演奏するために 十分な練習を必要とする楽器をデザインすることで、人間中心のインターフェイス・デザインを再考し音楽における練習の意義を再確認するための作品。

Artist Web

音響書道

山口 崇洋

《2006年度 卒業》
<第一回AACサウンドパフォーマンス道場 入選>
<第13回学生CGコンテスト インタラクティブ部門 佳作>
書道の際に発生する具体音と、書道そのものが持つリズミカルな筆の運びや筆を握る圧力などのフィジカルな要素で楽曲を構成していくサウンドパフォーマンス。

Artist Web

トクトクマウス Ver0.1

土居下 太意

《2011年度 卒業》
<第17回学生CGコンテスト 審査委員賞>
大きなマウスを背負い動かすことで作品のさまざまなスピーカーやパソコン、自動販売機や画面などの機械同士の相互交流の変更に参加できると同時に、画面上の点の鳥を操り絵を描くことができる高度なインタラクション作品。

Artist Web

Tamabi idd Art & Media Program「メディアアートの教科書」
多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース作品集
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ヨゼフ・ボイス

1921年–1986年/ドイツ出身の現代美術家、彫刻家、教育者、 社会活動家。初期のフルクサスに関わり、数々のパフォーマンス・アートを行う。脂肪や蜜蝋、フェルト、銅、鉄、玄武岩など独特な素材を使った立体作品を制作した。

ヘルマン・ニッチュ

1938年–/オーストリア出身の画家、作曲家、作家、パフォーミング・アーティスト。60年代から動物の臓物や死骸や血を用いた過激なパフォーマンスを始める。

マシュー・バーニー

1967年–/アメリカ出身の現代美術家。映像、彫刻を中心に制作活動を展開しており、美容整形用のプラスチックやシリコンなどの素材から構成される彫刻作品や、映像作品『クレマスター』シリーズなど、一貫して身体の変容をテーマとしている。

シンディ・シャーマン

1954年–/アメリカのポストモダン世代を代表する女性写真家。70年代末から自らを被写体としてハリウッド映画のワンシーンを演じるセルフ・ポートレイト作品『アンタイトルド・フィルム・スティル』シリーズで脚光を浴びる。

ジャクソン・ポロック

1912年–1956年/アメリカ出身。床に置かれたキャンヴァスに絵具の飛沫を飛び散らせる技法「アクション・ペインティング」により、抽象表現主義を代表する作家。

仮想現実(ヴァーチャル・リアリティ)

コンピューター・グラフィックスや音響効果などを組み合わせて、人工的に現実感を作り出す技術。構成要件として「体験可能な仮想空間の構築」「五感に働きかけて得られる没入感」「対象者の位置や動作に対する感覚へのフィードバック」「対象者が世界に働きかけることができる対話性」の4つがある。

ラップトップ・ミュージック

持ち運び可能なラップトップ・コンピューターの性能が向上し、単体でリアルタイム音響合成が可能になったことで生まれた、新たなサウンド・パフォーマンスのスタイル。音楽制作におけるウォークマン的革命であり、プログラミングの再発明にもつながった。

イタリア未来派

1909年にイタリアの詩人マリネッティが発表した「未来主義創立宣言」を契機に起こった前衛芸術運動。既存の芸術の在り方を徹底的に否定し、機械化によってもたらされる近代文明にふさわしい芸術の在り方を模索した。

ルイジ・ルッソロ

1885年–1947年イタリア出身の美術家、作曲家。イタリアの未来派に参加しており、1913年に論文『騒音芸術』を、そしてその実践として騒音を奏でる楽器《イントナルモーリ》を発表した。

ロバート・ラウシェンバーグの
『ホワイト・ペインティング』

ジャスパー・ジョーンズと共にネオ・ダダの代名詞として知られるアメリカのアーティスト、ロバート・ラウシェンバーグ(1925年–2008年)による、白い絵具を塗布しただけのキャンヴァスを7枚並べた作品(1951年発表)。

キネティック・アート

人力/風力/磁力/電気モーターなどを用いた、動きをともなう芸術作品の総称。1950年代にアレクサンダー・カルダーの一連のモビール作品によって一般化される。代表的作家としてニコラ・シェフェール、ジュリオ・ル・パルク、ジャン・ティンゲリーなどがいる。

ラップトップ・パフォーマンス

持ち運びが簡便なラップトップ・コンピュータを用いたライブ・パフォーマンス。

デバイス

特定の機能を持った電子部品または装置。

サーキット・ベンディング

おもちゃや楽などの既存の電子回路を改造することで、独自の楽器やツールを作り出す行為。

ハードウェア・ハッキング

一般的に流/販売されている電子機器/製品などを改造して、新しい機能や価値を持たせること。

ライブ・コーディング

観客の前でプログラムをリアルタイムで作成/更新する行為。

SPACE MAESTRO
井上恵介
2003年度 多摩美術大学情報デザイン学科
メディア芸術コース卒業制作作品

17年度文化庁メディア芸術祭インタラクティヴ部門審査員推薦賞受賞
自作コントローラーにより、音と光を空間的に移動させる事によって生まれる音響空間パフォーマンス。(写真:大森有起)

Braun Tube Jazz Band
和田永
2009年度 多摩美術大学 情報デザイン学科
メディア芸術コース 卒業制作作品

第13回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞受賞/作者はテープレコーダーやブラウン管テレビなどの古い電化製品をコンピュータ制御し、生楽器などと組み合わせて独特の音響作品を制作とパフォーマンスを行ってきた。この作品では古いブラウン管テレビとPC制御したビデオデッキを音階の数に並べて打楽器を制作して演奏を行っている。

D.D.D.
山川冬樹
2004年

多摩美術大学 情報デザイン学科 メディア芸術コース非常勤講師による川口隆夫とのコラボレーション作品。(写真:作者提供)

PARAKONPE 3000
スプツニ子!
2012年

スプツニ子!の映像作品を収録した1st DVDアルバム
(作品の多くはYoutubeでも視聴可能)

音信
佐藤亮介
2011年度 多摩美術大学 情報デザイン学科
メディア芸術コース卒業制作作品

懐かしい感覚のある公衆電話を改造して電子楽器として使用する演奏パフォーマンス。電話のボタンを操作しながら重い受話器を耳に当てるという時代的な動作にこだわった懐古的な演奏スタイルが興味深い。

The Order: From Cremaster 3
Matthew Barney
2002年

マシュー・バーニーのパフォーマンスを記録した映像作品シリーズから『クレマスター3』を収録したDVD。

ビッグ・サイエンス
ローリー・アンダーソン
1982年

80年代初頭にニューヨークのアート・シーンで独自のエレクトロニック・パフォーマンスによって一躍脚光を浴びたローリー・アンダーソンは、シンセサイザーやビデオ、コンピューター・グラフィックス、自作のエレクトロニック・ガジェットを使用して、音楽、映像、言語、アクションといったさまざまな表現をテクノロジーによってミックスしたパフォーマンスを展開した。(ICCオンライン参照)

イントラルモーニ
ルイジ・ロッソ
1913年

大阪万国博覧会におけるシュトックハウゼンの
空間音響パフォーマンス
1970年

4分33秒
ジョン・ケージ
1952年

無音の曲の初演プログラム。ニューヨーク州ウッドストック・マーヴェリック・ホール

マテリアルAV共鳴するインターフェース
久保田晃弘
2003年

NTTインターコミュニケーションセンター共通のデジタルデータから音響と映像を同時生成することでデジタル表現の本性を表わにする。(写真:大高隆)

Open Reel Ensemble[CD+DVD]
2012年

旧式の「オープンリール・デッキ」と現代のコンピューターをドッキングさせ、精密かつ大胆なライブパフォーマンスを展開するOpen Reel Ensemble(オープンリールアンサンブル)のファースト・フル・アルバム。高橋幸宏、やくしまるえつこ、大野松雄などが参加。Open Reel Ensembleは2009年より、メディア芸術コース出身の和田永と佐藤公俊と難波卓己、吉田悠、吉田匡たちが集まり活動を開始した。旧式のオープンリール式磁気録音機を現代のコンピューターとドッキングさせ、「楽器」として演奏するプロジェクト。

「Algorithmic Free Improvisation: Prepared &
Processed Guitar」Performance
久保田晃弘
2009

Arduinoでコンピュータと接続された自作三脚ギター+SuperCollider3によるギター・ソロ・インプロヴィゼーション。英国ニューカッスル大学カルチャーラボにおけるパフォーマンス。