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メディアアートの教科書

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Installation C

インスタレーション C

知覚への訴求

メディア・アート
久保田 晃弘|Akihiro Kubota

 絵画や彫刻、写真や映像といったメディアの歴史と、歯車式計算機、アナログ計算機、チューリングマシン、そしてデジタル計算機、といった計算の歴史が交差収斂するところに、ニューメディア、すなわちデジタル・メディアが誕した。メディアアートは「数値性」「分散性」「自動性」「可変性」を有するデジタル・メディアを出発点に、メディアそのものを対象とする、新たな芸術表現の総称である。今日ではさらにデジタル・テクノロジーのみならず、バイオ・テクノロジーやナノ・テクノロジーといった新たな科学技術と関連した芸術表現一般を指すようになり、ファインアートの伝統が根付いているヨーロッパでは、思想哲学とも深く結びついている。

 メディアアートの祖先は、19世紀前半の写真発明やバベッジの階差機関の時代にまで遡ることが可能だが、より直接的には20世紀半ばの、フルクサスEAT(Experimentsin Art & Technology)といったアート&テクノロジー運動からの影響が大きい。特にそこで生まれたインスタレーションやパフォーマンスといった表現形態は、そのまま今日のメディアアートにも深く受け継がれている。

 メディアアートの背景には、ハイパーテキストデータベース、ネットワークをめぐるノンリニアな(一方向に並べられない)物語理論や、インターフェイス、インタラクション、イマージョン(没入性)にかかわるアフォーダンス以降の知覚理論の発達がある。それらはいずれも、知覚や環境とは何か、人間とは何かという問題へとフィードバックし、テクノロジー賛歌としてのデザインやエンターテイメント表現を超えて、芸術が本来持っている批判性や批評性を呼び起こしながら、これからの社会にとって必要不可欠な営みとなっている。

Lake Awareness

ソフトウェア・アート / アプリケーション・デザイン
久保田 晃弘|Akihiro Kubota

 「ソフトウェア・アート」は、2001年にベルリンで開催されたメディアアートの祭典《transmediale.01-DIY[doityourself!]》で「アーティスト自らが書いたアルゴリズミックなソフトウェアで、単に機能するツールとしてだけではなく、それ自身が芸術的創造でもあるようなもの」と定義された。HTMLのformを利用したフォーム・アートでJODIと共にネット・アート/ブラウザ・アートの世界を開拓したアレクセイ・シュルギンサイトからは、メディアアートの項であげたソフトウェア・アートのポータルサイト《Runme.org》に飛ぶことができる。例えば、このサイトであげられているキーワードを見て欲しい。そこには「love」や「psychedelic」といった単語と、「POSIX」や「PHP」といったコンピュータ用語が渾然一体となって並置されている。アーティストにとって、もやは技術が単なる道具やコラボレーションの対象なのではなく、それこそが表現の素材であり、探究の対象であることが伝わってくる。

 ソフトウェア・アートにおいては、コンピュータやインターネット技術、プログラム言語やコードは、もはや創作における道具ではない。それこそが創造の素材であり、インスピレーションの源泉である。クリエイターには、技術それ自身が持っている本性を探究し、それをとことん使ってみたい、という欲望がある。技術において、便利であるということと危険であるということは同じことだ。便利であって危険でない技術は存在しないし、危険でない技術は役に立たない。デジタル情報の著作権問題と深くかかわるコピー技術も然りである。

 2008年、Apple社の《iPhone3G》の登場にあわせて《AppStore》がオープンした。《AppStore》は単にアプリの販売をするだけでなく、環境さえ整えば、誰でもiPhoneアプリの開発・配信を可能とする。スマートフォンであるiPhoneは、電話としての機能に加えて、iPodのように音楽を聴くことができ、写真を撮ることができ、インターネットに接続できるだけでなく、パーソナル・コンピューターのように、アプリケーションのプラットフォームとしても機能する。AppStoreから公開したアプリは、世界中へ配布、販売することができ、その総数は2012年5月現在で約60万。ダウンロード数も2012年3月に250億回を超えている。AppStoreでは、アプリの配信はiTunesStore上に展開され、音楽と同じようにダウンロードできる。

 1979年に初登場したSONY《ウォークマン》によるモバイル化、1980年代のCDによるデジタル化、MP3フォーマットの普及によるオンライン配信や、《Napster》に代表されるP2P ソフトウェアによるファイルの共有、さらには2001年に登場した《iPod》と《iTunes》など、音楽メディアは常に新たな時代のメディアを先取りしてきた。《AppStore》の登場後、音楽の配信は、データからアプリへと移り変ろうとしている。それはいいかえれば、音楽それ自身がアルゴリズムを持ち、さまざまなセンサーやネットワークと接続された、自律的形態へと進化していくことに他ならない。スティーブ・ジョブズは初代Macの開発時に「Real Artists Ship (本当の芸術家は、出荷する)」といった。そして今、「RealArtists Distribute( 本当の芸術家は、配布する)。

Text Book

Text Book

音響航海/Sound Sailing

大西 義人

《2009年度 卒業》
世界各地でサンプリングされた音による 「音地球」を架空の船で自由自在に航海する インタラクティブな映像音響インスタレーション作品

GLOBAL BEARING

平川 紀道

《2004年度 卒業》
長い竿状のコントローラーで地球を串刺しにする。
すべるような動きが体験者の想像力を喚起する。

Artist Web

Type[img];

馬場 美沙紀

《2011年度 卒業》
タイプライターで文字を打ち込むとネットから集められた様々な文字のように見える写真が現れる 「新しいメディア」と「古いメディア」を合体させたメディアアート作品

gossamer-1

森 浩一郎

《2006年度 卒業》
抽象絵画を自動生成するマシンによる絵画インスタレーション 作品を展示している空間の音を解析し グルーを絵具として カンバス上に独特の質を持った半立体の抽象画を描く

Artist Web

GroWorD

高橋 昂司

《2012年度 卒業》
文字にはそれを書いた人の想いが込められる。そんな手書きの文字と、PCシステム上のフォント(書体)とを組み合わせ、生きた細胞のようにも見える新しい文字を生成していく作品。体験者は、科学的実験の中で未知の細胞を発見するかのような「ときめき」を体験することが出来る。

福島の形相

後藤 寛敬

《2013年度 卒業》
後藤寛敬の「福島の形相」は、青空にのどかに鳥が飛んでいたり、雲がゆっくりと動く映像が映し出されたモニターの表面に放射線量のデータが白いペンで図形化されていく作品である。彼が福島県楢葉町に滞在して実際に採取した放射線データや映像素材は「目に見えない悪夢やよくわからない異物感」となって作品上に表現されている。Polargraph plotterという描画するマシンとprocessingというプログラミングを使い、放射線量のデータによって上下左右に動きながら青空に何か得体の知れないモノを刻むように描いていくこの作品の様相はまさしく「現在」を表出させているように見える。

IAMTVTUNERINTERFACE

渡邉 朋也

《2005年度 卒業》
<第11回 学生CGコンテスト インタラクティブ部門 佳作>
テレビというメディアと人間との関わりをテーマにした、インタラクティブアート作品。それを元に生成された3次元のオブジェクトのテクスチャーが巨大スクリーンに映し出される。ありそうでないこの「テレビ・アートの前には、我々の否応無しの日常が現れてくる。

Artist Web

in the Chain

豊島 七瀬

《2007年度 卒業》
プロジェクションされるイメージの前にぶら下げられた拡大ルーペ。覗きこまなければ認識できないものと、覗きこむと認識ができなくなるイメージが見て取れる。この作品では認識の往復を繰り返しながら外界を把握していく我々の認識行為の不確かさや不思議さについて語ってくれる。

全的に歪な行且 シリーズ

多田 ひと美

《2007年度 卒業》
「全的に歪な行且」2006年/「全的に歪な行且 -第二犯-」2007年<第14回 学生CGコンテスト インタラクティブ部門 最優秀賞><BACA-JA 2009 ネットワークアート部門 優秀作><Asia Digital Art Award 2008 インタラクティブアート部門 入賞>/「全的に歪な行且 -ドライビング-」2009年

「全的に歪な行且 シリーズ」は、独自のプロセスによって起こる予期せぬ変換やズレ、異質な要素の混在などに焦点をあてた一連の作品群。「全的に歪な行且」(2006)では六法全書を、「全的に歪な行且 -ドライビング-」(2009)では道路交通法を独自のプロセスによって歪に読み上げていくインスタレーションを展開した。「全的に歪な行且 -第二犯-」(2007)ではその時間帯に配信されているネット上のニュースを、画像検索によって、別の文脈の画像で組み替えていくプログラムを制作。最終的に、異質な要素が不意に連続してしまったり、突発的に予期しない画像が目の前に飛び込んでくるような映像インスタレーションとなった。情報の破壊と歪な再生を試みた作品と言える。

Artist Web

草野君

新谷 芙美

《2012年度 卒業》
草野君は、自ら光を求めて移動する、植物のためのモバイル/インタラクティブ環境である。それは植物の柔らかいサイボーグ化ともいえるだろう。植物の動物化をテーマとした草野君は、植物同様その形態やメカニズムを少しずつ進化させてきた。この最終バージョンでは、それぞれ異なる性格を持ったデバイスが、あたかもカルガモ親子のように連成する。

inter-face

安部 裕子

《2013年度 卒業》
非接触のインターフェイスを用いたインラクションには、まだまださまざまな可能性がある。この作品は、今や市販のカメラの多くに搭載されている笑顔認識を使った作品だ。高速にフリップするイラストレーションが表示されているディスプレイの前に立つと、その人の笑顔に反応して、イラストレーションの顔も笑い始める。阿部は一貫して、人間の「笑顔」が持つ多義性やその背景をテーマにした作品を制作してきたが、この作品はさらに日常でしばしば経験する笑いの連鎖に着目し、その暗黙のインタラクションを顕在化する。写真だと生々しすぎて笑顔以外の要素が強くなりすぎてしまうが、柔らかいイラストレーションを用いることで、笑顔の連鎖をうまく引き出すことに成功している。

超臨界絵画流体v010

上 航

《2013年度 卒業》
大きなスクリーンに絵画が投影されているこの作品は、絵画を装置によって解体し新しいイメージを生成していきます。雪、あるいは花が散るゆくかの様に絵画は解体され、新しいイメージへと降り積もっていきます。その光景は、絵画の中に仕込まれた芸術性そのものを抽出しているように見えてきます。

Artist Web

VP3L

比嘉 了

《2005年度 卒業》
空間の概念とプログラミングの融合をテーマにした、リアルタイム音響プログラミング言語。空間の概念をプログラムの基本要素とし、3次元の仮想空間内のオブジェクトをワイアで繋いでゆく直感的な操作によって音響プログラムを記述する。このプログラミング言語により、言語によって記述する空間と実音響空間を結びつけることが可能となり、プログラマーが自由に実音響空間を操作することができる。

Tamabi idd Art & Media Program「メディアアートの教科書」
多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース作品集
COPYRIGHT © IDDLAB. SOME RIGHTS RESERVED 2014.

チューリングマシン

1936年にイギリスの数学者アラン・チューリングによって考案された計算機のモデルで、「無限に長いテープ」「テープの情報を読み書きするヘッド」「計算機内の状態を保持するメモリー」で構成される。計算機を数学的に検証・議論するために単純化・理想化された仮想機械で実際に製作されたわけではないが、現在のコンピューターも突き詰めればチューリングマシンの原理に従っていると言える。

ナノ・テクノロジー

物質をナノメートル(nm、1nm = 0.000001mm)の領域において創製したり、それらの物質を組み合わせてコンピューターや通信装置、微小機械などを創る技術のこと。ナノテクと略され、現在最も活発な科学技術研究分野のひとつとなっている。

フルクサス

1960 年代に欧米各地で広く展開された芸術運動。美術、音楽、詩、舞踏などの各ジャンルにまたがる横断的な芸術表現が特徴で、後年のコンセプチュアル・アートやパフォーミング・アーツに与えた影響は極めて大きい。メンバーとしてナムジュン・パイクやヨーゼフ・ボイスら、日本人ではオノ・ヨーコ、靉嘔、塩見允枝子らがいる。

EAT(Experiments in Art & Technology)

1966年にスウェーデンの技術者B・クリューヴァーやR・ラウシェンバーグ、J・ケージらが発足させた運動組織。ニューヨークを拠点に、ダンス、電子音楽、ビデオ上映など芸術とテクノロジーを融合させるさまざまな試みを展開したが、とりわけ66年10月に開催されたプログラム『劇場と工学の9 夜』は、 B・フラー、G・ケペッシュらが参加し、大きな反響を呼んだ。(執筆:暮沢剛巳氏)から引用

ハイパーテキスト

複数の文書(テキスト)を相互に関連付け、結び付ける仕組みである。アメリカのコンピューター科学者テッド・ネルソンと、ダグラス・エンゲルバートによって発明され、「テキストを超える」という意味からhyper-(ーを超えた) text (文書)と名付けられた。ハイパーテキストから引用(Wikipedia参照)。

データベース

特定のテーマに沿ったデータを集めて管理し、容易に検索・抽出などの再利用をできるようにしたもの。コンピュータ上では、データの再利用を高速かつ安定に実現するため、データを格納するための構造について様々な工夫が払われており、このデータ構造は情報工学において重要な研究分野のひとつである。データベース から引用/改変(Wikipedia参照)。

アフォーダンス

アメリカの知覚心理学者ジェームス・ギブソンが1950年代後半に提唱した新たな知覚モデル。「アフォード(afford)=与える・提供する」からの造語で、環境の中にある物の持つ属性(形、色、テクスチャーなど)が、その物自身をどう取り扱ったら良いかについてのメッセージを生物に対して発している、とする考え。

アルゴリズミック(アルゴリズム)

ある目的を遂行するための記述された手順のこと。特定の形で表されるものではなく、料理のレシピや家具の作り方といった日常のありふれたことからコンピュータ内での計算まであらゆるものに存在する(Wikipedia参照)。

アレクセイ・シュルギン

ロシア出身のアーティスト・キュレーター・ミュージシャン。アートと日常を行き来しつつネットというメディアに介入した作品で知られる、ネットアート/ソフトウェアアートのパイオニア。
こちらも参照のこと。

ウォークマン

ソニーが1979年7月1日に発売した携帯型ステレオカセットプレーヤー。場所を選ばずいつでもどこでも音楽を聴くことのできる製品は画期的で世界的な大ヒットとなった(Wikipedia参照)。

スティーブ・ジョブズ

商用パーソナルコンピューターで世界初の成功を収めたアップル社の共同設立者の一人。また、そのカリスマ性の高さから、発言や行動が常に注目を集め続けた(Wikipedia参照)。

ウェブの表象を解体するブラウザー・アート

『サイバネティック・セレンディピティ』展
ポスターと会場風景
1968年

『サイバネティック・セレンディピティ』展はキュレーターのヤシャ・ライハートらによって1968年にロンドンのICA(現代芸術センター)で開催された世界初の大規模なコンピュータ/メディア・アートの展覧会である。エンジニア、アーティスト、詩人などが多数参加し、日本からはCTGが出品した。

『20世紀コンピュータ・アートの軌跡と展望』展
多摩美術大学美術館(2006年)

国内外の歴史的なコンピュータ・アートの作品、芸術的アルゴリズムの思想や理論の継承者たちの作品や資料約250点を展示した。

クリエイティヴ・コモンズ

情報を共有することで創造的な環境を創り出す新しい著作権のありかたを提示する。

WAXWEB

デビッド・ブレアによる「ハイパーテキスト映画」。

《Make》DIY+Internet =
DIWO( Do It With Others)による
新たなものづくりコミュニティーの誕生

2012年6月2日には、日本科学未来館で、『Make』誌のファウンダーであり、Maker Faireの共同創設者でもあるデール・ダハティを迎えて《Maker Conference Tokyo 2012》が開催された。

ラップムシ

成瀬つばさの「リズムシ」シリーズ最大のヒット作。ボタンを押すだけで、「オレは」「音楽」「うたう」などのラップ調の単語が再生され、ループするリズムとを組み合わせることで簡単にラップを楽しめる。単体で100万ダウンロード以上を達成している。

『Bloom』

ブライアン・イーノとピーター・シルバースによって2008年に作られたiPhoneアプリ。アプリを起動するとドローンが流れ、画面をタッチすると波紋と共に音が生成される。

『RjDj』(2008–)

iPhoneに搭載されているマイクや、各種センサーなどの値からアルゴリズミックに音(楽)が生成されるiPhoneアプリ。通常の「曲」に相当する「シーン」と呼ばれるプログラムが用意されていて、後から追加することもできる。

『VP3L』比嘉 了
2006年–

3次元空間の概念をベースにしたリアルタイム音響プログラミング言語。撮影:木奥惠三(ICC Open Space 2008)
《オープン・スペース 2008》『VP3L』(Visual Programming for 3D Language
scopic measure #05 比嘉 了『VP3L』

『SimpleDotBrowser.app™』

久保田晃弘と平川紀道が開発した、ギガ(十億)単位のデータをピクセル(ドット)に対応させることで、その全データを一望にすることを可能にする、超大規模情報の可視化ソフトウェア。人間のゲノムの塩基数の2倍に相当する、最大60億ピクセルの画像ファイルを一度に読み込むことで、リアルタイムにスクロール表示できることができる。

ソフトウェア・アートの起源
『Nato.0+55+3d』Netochka Nezvanova
1999–2000年

Max MSPを拡張するオブジェクトを開発配布することを通じて著作権や表現の問題を鋭く批評する。