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メディアアートの教科書

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Installation B

インスタレーション B

空間と体験の芸術表現

メディアによる空間と体験芸術
森脇 裕之|Hiroyuki Moriwaki

 近年のめざましいメディア・テクノロジーの進展は、芸術そのものの成り立ちを問いかけるような、新しい解釈をうながす起爆剤となっている。その原点を見てみると、空間や時間に対する新たな視点が根底にあることがわかる。

 キネティック・アートは、刻々と変化する様子そのものを表現する。ライト・アートでは、絵の具という物質の反射光によって成立していた絵画表現に対して、光そのものを表現することによって、純粋な視覚体験をもたらす。今日のように映像メディアが注目を集める時代においても、「光」や「動き」の表現をあらためて問い直すことは、メディア表現の根幹となる本質的な事象を理解することにつながってゆく。

 さまざまなメディアを通じた知覚の要素は、インスタレーションのような空間を対象にした芸術において、どのようにあつかわれるのだろうか。作品空間のなかでは、人と、映像、音響、光、運動などがミックスされた、総合的な芸術表現がくりひろげられる。そのようなメディアが交錯する空間において、コンピューターが実現するヴァーチャルな体験と、われわれのリアルな空間で体感する経験が出会って、新しい感覚が発動されることになるだろう。

 今日では身近なデバイス機器が入手可能となり、デジタルデータをあつかった革新的な空間体験が実現可能となっている。それはこれまでにないまったく新しい未来的な表現分野を生み出すばかりではなく、従来からのアートにメディアの要素をつけ加えることで、これまでとは違った解釈が加えられるような作品が登場することもある。たとえば詩と映像メディアの組み合わせ、身体表現とメディア・テクノロジーが融合した作品など、従来からある表現と比べてみても、新鮮な緊張感が生まれて新しい展開を感じさせる作例をいくつも見ることができる。

 インスタレーションによる芸術形式では、かつてのように作り手から受け手への一方通行ではなくなってきている点にも注目したい。空間のなかに入りこみ、その場所を体験するということは、作品に関わっている「人間」自体の存在が大きくクローズアップされることでもある。作品と観客が相互に動きかけ、反応する「インタラクティヴ・アート」は、空間と人間の状況の変化をダイナミックにとらえて、リアルタイムに処理をすることのできるメディア・テクノロジーの特長を生かした芸術表現である。観客が作品に関わることで、観客からのフィードバックが作品にもたらされ、その刺激で積極的に作品が変容する構造をもつ芸術は、これまでになかった新しい芸術の形式である。

Text Book

GOZO-ROP

海田 明世

《2012年度 卒業》
愛らしい風体とは裏腹に、ぬいぐるみの内部に仕込まれた様々な感触。視覚と触覚の異なる感覚は、体験者に複雑なイメージを想起させる。

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間宮 尊

《2012年度 卒業》
頭蓋骨に埋め込まれたLED(極小の照明)が、次々と焼き切れていく。3.11の体験を元に制作されたこの作品は、情報や危機的状況の中で翻弄しながら、ただ「死」への為のみ生まれでる細胞のイメージを表現している。焼き切れるLEDは、一つ一つが異なる光や音を発しながら消滅していく。その様は、細胞の一つ一つも個としての独立した存在があることを想起させてくれる。

メディアアートの寓意

津島 岳央

《2005年度 卒業》
<第9回 文化庁メディア芸術祭 アート部門 審査員会推薦作品>
<第11回 学生CGコンテスト インタラクティブ部門 最優秀賞>
プログラム協力:野上大輔(Daisuke Nogami)
フェルメールの絵画「絵画の寓意」を立体的に映し出すインタラクティヴ・アート作品。双眼鏡からのぞき込むと、絵の中に入ってしまったようなリアリティーを体感できる。

それぞれの眺め

八田 綾子

《2009年度 卒業》
幾重にも編み込まれたナイロン糸による巨大な構造体が天井から吊されている。ゆっくりと動くLEDの仕掛けでナイロン糸が照らし出され偶発的にも繊細な光点の重なりがうつろってゆく静謐な気品あふれる作品。

see-sow

岩本 多玖海

《2008年度 卒業》
シーソーをモチーフにしたコミュニケーション・メディア。連結されたシーソーの上に乗っている球をシーソーを漕いで操作する。金属ボールをうまく行き来させるために、2人の体験者には息のあった屈伸運動がもとめられる。

MOTHERS MOUNTAIN

矢野 詩織

《2013年度 卒業》
雑踏の中に生まれる「今」。スピーディーに移ろい行くなカルチャーを捕まえる為に、彼女はざっとの街に身を置き、そこで目にした数多くのイメージを収集し再構成した。ファッションや音楽、アートといった垣根を越えて混在する「今」を空間化している。
[無音記録]

Tamabi idd Art & Media Program「メディアアートの教科書」
多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース作品集
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キネティック・アート

広義的には、物理的に動く美術作品、あるいはそのように見える作品をさす。動力はモーターなどの人工的なものから、風や水流といった自然の力、あるいは人力による場合もある。錯視効果などを応用したオプ・アートが範疇に含まれる場合もある。

ライト・アート

主に人工的な「光」を素材として制御し、鑑賞者の視覚と直接結びつけて展開する作品。1920年頃から実験的な作品が作られはじめた。モホリ=ナジの『ライト・スペース・モデュレーター(光・空間調整器)』などが有名。

Lake Awareness
森脇 裕之
2005年

パーツ基板のセンサーに近づくと光の点滅が影響しあって、お互いに連鎖反応を起こす。それぞれが隣に信号を伝えてゆき、光が波紋のように広がってゆく様子を見ることができるインタラクティブなライト・アート作品。(撮影:Andrés Fraga)

10番目の感傷(点・線・面)
クワクボリョウタ
2010年

展示空間内 に配置された日用品を、鉄道模型に付けられたLED光源が照らす ことで室内に巨大な影を作り出す。光源の移動に従ってさまざまに 見え方が変わっていく。身体性を伴った視覚的な作品。 (写真:©2010 クワクボリョウタ/撮影:木奥 恵三/写真提供:NTT インターコミュニケーション・センター[ICC])

ウツツテップの無限階段
藤田 智里
2009年度 多摩美術大学 情報デザイン学科
メディア芸術コース 卒業制作作品

目の前にある階段を上ろうと踏み出したら階段が下がってしまって、踏み上がることのできないまま、また足を踏み出す。不可思議な階段型をした体験アトラクションの要素を持った作品。永遠に登り続けなければいけない階段というコンセプトは、寓話的な面白さを感じさせる。

MIKIKO_house
山林 美樹子
2009年度 多摩美術大学 情報デザイン学科
メディア芸術コース 卒業制作作品

アーティストを育てるアトリエハウスが出現した。このアトリエは未来の自分のためのアトリエである。そこでは自分にとっての最良の環境が用意され、日々実験や制作が繰り返されている。アーティストが成長するたびにアトリエの壁が塗りかえられてゆく。アーティストといっしょに進化するアトリエもまた、彼女の作品なのである。

それぞれの眺め
八田 綾子
2009年度 多摩美術大学 情報デザイン学科
メディア芸術コース 卒業制作作品

ナイロン製の透明な糸で構成されたオブジェが、青いLEDの照明を受けて暗闇のなかに浮かびあがる。青色の光はゆっくりと角度を移動して、構造体の映り込みを変化させてゆく。ゆったりとした光のうつろいのなかで、夜露に濡れたような透明糸の織りなす表情を見つめる作品。