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メディアアートの教科書

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Installation A

インスタレーション A

芸術表現の多様化

現代アートの世界の多様化 ― インスタレーション
森脇 裕之|Hiroyuki Moriwaki

 今日、現代アートの世界はじつに多様化し、表現の領域は幅広く拡大している。19世紀まではデッサンのようにありのままの風景を画面のなかに封じ込めることが、芸術のあるべき姿であると多くの人のあいだで認識されてきた。そのような絵画空間の秩序が、20世紀に入ると大きく変容することになる。ピカソらによる「キュビズム」の実験によって、形体は複数の視点から多様にとらえられるものとなり、ルネッサンス時代から伝統的に受けつがれてきた「遠近法」による絵画空間はくつがえされてしまうことになった。

 また時を同じくして、イタリアの未来派の画家たちによって、画面のなかに時間の概念を取り入れる試みがなされた。未来派は絵画空間のなかに動的なダイナミズムを求めた。これらのような20世紀初頭の芸術運動がきっかけになって、芸術はわれわれの認識を拡大するための思考の道具として、その役割を明確にしていった。

 現代では、かつてのように額縁にとり囲まれた領域だけが現代アートの空間ではない。それらの枠組みを超えようとする表現空間が試みられて、自由な領域のなかで活き活きと展開される作品が数多く作り出されている。そのように拡がりのある空間を意識した自由な表現の場が「インスタレーション」と呼ばれるようになった。インスタレーションとは、場所や空間全体を作品として認識し、観客に体験させる芸術である。
 インスタレーションの概念は拡大しつづけ、ついには美術館の建物を脱出して、屋外の空間にも広がっていくようになった。そうして生まれた作品は地球規模で展開する芸術ということで「アース・ワーク(もしくはランド・アート)」と呼ばれ、壮大なスケールのものになってゆく。

 空間から環境へと空間の意識が拡大することをきっかけに、われわれの思考の枠組みもどんどんと広がってゆく。時間の感覚も多様な概念でとらえられるようになった。それは作品のなかに「変化」や「変容」することを受け入れる作品の登場を意味する。初期の未来派のアプローチでは「動いているように見える絵画」にとどまっていたが、ロシア構成主義ナウム・ガボは、初めて実際に動く彫刻を、モーターを用いることで実現した。これ以降、動く彫刻(キネティック・アート)は、空間表現に時間の要素を加えることに成功した芸術分野として発展してゆく。

 現代アートでは定着化しない空間や時間の概念までとらえようとするために、最終的に作品が、ある決まった形体に落ち着くとは、言い切れなくなってきている。偶然によって生まれた形体がそのまま作品になるなど、制作のプロセスや、状況までもふくめて見せるようなパフォーマンス性の強い作品も登場している。このような作品では、その時その場だけでしか体験できない「一回きり」の作品になることもある。

Text Book

時間軸の上での私たち

大田 萌

《2008年度 卒業》
水の中に落ちる白いインクが二度と同じ状況を生み出すことなく 常にさまざまな美しい形状を創り続けるインスタレーション作品
[無音記録]

影の光、光の影

赤松 裕子

《2012年度 卒業》
プリミティブな光の現象を抽出し、空間へ広げる作品。次々と現れる光・影は、それぞれが持つ既成されたイメージを変化させてくれます。
[無音記録]

sol arabesque

坂本 紗也香

《2011年度 卒業》
震災の停電で真っ暗闇となった夜がようやく開けると 朝の太陽光がすべてを明るく 暖かく照らしてくれた 作者の体験を元にしたビーズ刺繍で編み上げた光をテーマとしたオブジェ作品
[無音記録]

ミラボン

宮本 和奈

《2005年度 卒業》
作者の光輝くミラーボールへの関心が、操ることのできるミラーボールへと進化させていった。まさに「光のシャワーを浴びる」作品である。
[無音記録]

Artist Web

M・Lantern

伏見 再寧

《2008年度 卒業》
伏見の作品の魅力は、映像のもつ生々しさを伝えてくれるところにある。そこにたちあらわれる映像は、デジタルに慣れきったわれわれにリアルを突きつける。20世紀からの映像メディアはつねにリアルを追究してきたが、はたしてそれをクリアしてきたのか、疑わしいところも残している。そういうなかで、あえて時代の遺物化しつつある実物投影機の原理をもちだし、そこに現代的な味つけをほどこした。そうして生み出される映像に、今日的な意義を見いだそうとする伏見の取り組みは、これから重要な意味を持つものとなるだろう。
[無音記録]

CHERRY KING 5号 大人の秘密基地

高橋 直樹

《2005年度 卒業》
戦車が好きで、つくってしまった男。自分の好きなことをそのまま実践してできたのがこの「妄想の戦車」だ。

地震を止める実験のための塔

原田 葉子

《2011年度 卒業》
バタフライ・エフェクトのようになんらかの行為や出来事が関連して成立する必然をもって震災をくい止められる(かもしれない)という想いからつくられた地震を止めるための塔。

潮風ローカルライン

阿波田 稔子

《2005年度 卒業》
鉄道模型の列車が白いジオラマのなかを走っている。その動きに連動して投射される映像では、ジオラマのなかで起こる物語が映し出される。作者はリアルとバーチャルを結びつけ、統一感のある世界をつくりあげた。

Artist Web

リヴィングラウンド・マザー

佐藤 えりか

《2013年度 卒業》
回転する大きな円盤に、レコードプレーヤーのようにアームが取り付けられている。円盤には様々なマチエールが施され、アームの先端にはマイクが設置されている。円盤にこすれるマイクは、微細な凹凸から大地を旅するようなスケールのある音空間が広がる。

Artist Web

コピーのコピーのオリジナル

佐野 友紀

染付と間違えるほど精巧に「油絵の具で陶磁器の壺に描かれた青花流水の文様と風景」。壁には油彩の筆後がごてごてと見えるほど接写撮影されたクロースアップ写真をプリントしたキャンパスにその画像を模して油絵の具で再度着色された平面作品が並んでいる。オリジナリティとコピーの違いは何処にあるのか。 デジタルデータと物質の間に存在する我々の知覚についてこの作品は問いかけている。
[無音記録]

萬絵詞 YOROZU-E-KOTOBA

川上 秀行

《2007年度 卒業》
人間の欲望に潜む本能を墨絵的に表現したアニメーション。それを床の間の掛け軸をフレームとして捉えた空間で展示した映像インスタレーション作品。

Meigma

秋葉 涼子

《2011年度 卒業》
アクリル板がリンク構造によってスライド運動する。透明なアクリル板には透過性のカラーフィルムが貼り込まれており、それが複数組み合わされて複雑な透明混色効果を生み出している作品。
[無音記録]

Romantic Imperfections

KANG Jiyeon

《2013年度 卒業》
苺の皮層にある痩果(種子のように見える部分)のくぼみから、赤い液体(血液のような)がしたたり落ちている。若々しい女性の姿を連想させる苺の質感とグロテスクな血液の、対極ともいえる対比。さらに白い苺は何を象徴するのか。さまざまなイメージの連鎖から成る作品である。それを読み解こうとしても、矛盾する要素に阻まれて明解に答えにたどり着くことができない。しかし、わからないけれど、われわれはこの作品について、共感をもって迎え入れられる不思議な存在感が伝わってくる。おそらく作者のなかにある多面的な想いや感情がそのまま表現されたのだと思われる。作者の意識のなかで、よくわからないことをわかってほしいと訴えているかのような作品だ。
[無音記録]

Tamabi idd Art & Media Program「メディアアートの教科書」
多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース作品集
COPYRIGHT © IDDLAB. SOME RIGHTS RESERVED 2014.

キュビズム

パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって創始された、主に絵画における芸術運動。モチーフを様々な角度から見たときに得られる形を1つの画面に収める手法が特徴的。

未来派

20世紀初頭にイタリアを中心に勃興し、美術をはじめ、音楽、文学、建築などの分野にも波及した前衛芸術運動。近代文明の要素を積極的に取り入れる姿勢は、のちの現代美術に大きな影響を与えた。

ランドアート

自然の風景に直接はたらきかけて展開する現代美術のジャンル。代表的な作品としては、1970年にロバート・スミッソンが湖面上に展開した《スパイラル・ジェティ》が挙げられる。

ロシア構成主義

前述のキュビズムやシュプレマティズムの影響を受け、1910年代にロシアで展開された芸術運動。幾何学形態といった抽象性や、革新性、象徴性などを特徴とし、平面、立体を問わず様々なジャンルの作品が生まれた。

ナウム・ガボ

ロシア構成主義の初期から活動している美術家。アプストラクシオン・クレアシオンのメンバーでもある。代表作として『球型のテーマ』、『線的構成No.1(ヴァリエーションズ)』など。

ミラボン
宮本 和奈
2005年度多摩美術大学 情報デザイン学科
情報芸術コース卒業制作作品 (写真:三橋純)

ミラーボールを直接手で操作できるようにして、光の乱反射を空間に映し出す作品。

点線の先
猪股咲子
2009年度 多摩美術大学 メディア芸術コース
卒業制作作品

支柱に支えられた金属シャフトの両端にあるのは、丸い磁石だ。磁石の引き合う力で複数のシャフトが連結されている。自由連結で構成されたシャフトの網の目は、人の手が触れただけで、緩やかなゆらぎになって全体に広がってゆく。しなやかでいて、緊張感のある空間ができあがっている。

こもれびプロジェクト
木村 崇人

木もれ陽は、葉と葉が重なってできる小さなすき間に光が差しこんで生まれるもの。光源の形を変えることで、星の形をした木もれ陽ができる。

suzukaze
伏見 再寧
2007年度 多摩美術大学 情報デザイン
学科メディア芸術コース 卒業制作作品

オブジェに息を吹きかけると壁に投影された風車がくるくると回る。風車の映像は箱の中にある実物の風車がライトに照射されて映し出されたものだ。デジタル映像とは質の異なるアナログな映像体験が新鮮。

アビニヨンの娘たち
パブロ・ピカソ
1907年

キュビズムを経て制作された代表的絵画の一つ。これが後に起こる「キュビズム革命」の発端となった。