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メディアアートの教科書

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イラストレーション

ペインティング / 平面作品

マンガとアニメ ― 日本の表象
佐々木 成明|Naruaki Sasaki

 日本の「絵巻物」は、横長の紙や絹を水平方向につないだ長大な画面に、図像と説明の詞書を交互に描き情景や物語を表す。絵だけの絵巻もあるが、中には『華厳宗祖師絵伝』のように「詞」とは別に、人物のかたわらにマンガの吹き出しの様に「せりふ」を書き込んだ絵巻もある。絵巻物の特徴的な画法には一連の時間的経過を一枚の絵で表現する「異時同図法」がある。同一画面に同じ人物が複数回登場して、その間の時間的推移が示されるのだ。壁面ではなく机 の上に置いて鑑賞する絵巻物は、新しい場面を繰り広げながら、見終わった画面を巻き込んでいく。画面の水平方向の長さに制約はなく、長大な物語を詳細に表現できる。それらはどれもマンガの構造に等しい。

 江戸時代に成立した「浮世絵」は、多色刷りの木版で印刷された「錦絵」がもっとも多い。浮世絵はマンガと同じく即時性をもった複製芸術の媒体であった。同じく江戸時代に完成された演劇表現である歌舞伎には「見得を切る」という言い回しがある。「見得」とは、感情や動作の高まりが頂点に達したことを示すため、動作を一瞬静止させ、目を大きく見開いて睨んでみせる所作だ。歌舞伎を扱う多くの錦絵には見得を切る役者が描かれてきた。見栄は役者が静止した絵画を舞台上に創り出す技法であり、これも日本のマンガ表現の原型のように考えられる。

 ロラン・バルトが『表象の帝国』と称した日本文化の根底には、万物に霊が宿ると信じて「ヤオオロズの神々」を祭るアニミズムの思想が潜んでいる。生者の領域だけでなく、死者や神の領域からも魂や精神が往来すると考えるアニミズムの思想は、絵画と文学など日本の諸芸術に多大な影響を与えている。日本最初のテレビアニメ《鉄腕アトム》の時代、アニメはテレビ漫画と呼ばれていた。アニメとは動くマンガであった。アニメとマンガ、さらに人形をめでる今日のフィギアなど、日本型のメディア芸術は、アニミズム信仰を根底にして幾重にも積み重ねられてた日本独自の視覚芸術の歴史の現在形に他ならない。

Text Book

イマムカシヒロイニズム

魚川 詩音

《2013年度 卒業》
本作は憧れのイメージを具現化した「少女漫画の表紙」を、アクリル板で削りだしている。鑑賞者の顔は、削る出されたアクリルの中に映り込み、少女マンガのヒロインの顔と重なり合う。憧れのイメージの中に、少女漫画に夢中であったかつての記憶が蘇る。
〔無音作品〕

猫に焦がれた男

林 千景

《2007年度 卒業》
猫に焦がれた男が織り成す不思議な生き様を描いた絵本。この物語を道案内する絵は、独特の強さを秘めた印象深い絵である。
〔無音作品〕

Artist Web

Human's Life

姉川 寛士

《2011年度 卒業》
"幸福"というテーマを元に男と女のある風景をカラーインクとペンで描いた情感豊かなイラストレーション作品。
〔無音作品〕

目→

田中 寛崇

《2008年度 卒業》
女子高生が持っているエロチシズムを作者の視点で切り出し構成したイラストレーション作品。
〔無音作品〕

東京ネオキッチュレポート

北村 美佳

《2006年度 卒業》
商品ロゴとキャラクターのシールやステッカーを貼り合わせたコラージュによるにぎやかなプリント地の晴れ着と作者がそれを装う写真作品。
〔無音作品〕

Tamabi idd Art & Media Program「メディアアートの教科書」
多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース作品集
COPYRIGHT © IDDLAB. SOME RIGHTS RESERVED 2014.

『表象の帝国』

ロラン・バルト(1915–1980)はフランスの批評家。ソシュールやサルトルの影響を受け、エクリチュール(文字・書かれたもの、書法)について独自の思想的立場を築いた。「神話作用」、衣服などの流行を論じた『モードの体系』、写真を「プンクトゥム」という概念で論じた遺作『明るい部屋』など、その活動は幅広い。独自の日本論を記した著書『表徴の帝国』(1970年)において、バルトは西洋が「意味の帝国」であるのに対し、日本は「表徴(記号)の帝国」であると、日本を訪れたときの印象を記号論の立場から論じている。(Wikipedia 参照)

ホリディ
平野 遼
2010年度多摩美術大学 情報デザイン学科
メディア芸術コース 卒業制作 アニメーション作品

目→
田中 寛崇
2008年度 多摩美術大学 情報デザイン学科
メディア芸術コース 卒業制作作品

女子高生が持っているエロチシズムを作者の視点で切り出し構成したイラストレーション作品。大胆な構図と色彩が心地よい。紙の選択や独特のデフォーカスの表現など、インクジェットプリンターの持つ可能性を追求した作品。

『相馬の古内裏』
歌川国芳(うたがわくによし)
1830–1844年

滝夜刃姫の操る妖怪がしゃどくろと戦う大宅太郎光圀の図。

『鳥獣戯画』

京都市右京区の高山寺に伝わる紙本墨画の絵巻物。12世紀–13世紀(平安時代末期–鎌倉時代初期)に成立したと推測される。当時の世相を反映して動物や人物を戯画的に描いたもので、特にウサギ・カエル・サルなどが擬人化して描かれた甲巻が有名。一部の場面には現在の漫画に用いられている効果に類似した手法が見られ「日本最古の漫画」と称される。

『華厳宗祖師絵伝』(ケゴンシュウソシエデン)
作者未詳
1220年代

新羅国の華厳宗祖師義湘と元暁の行状を描いた絵巻。マンガの吹き出しと同じく登場人物の会話がセリフとして書かれている。
(高山寺蔵)