この展覧会に参加しているアーティストは、
わたしたちの時代の同じ空気を呼吸している。
それは21 世紀都市の空気であり、
その空気をとおして光がカメラのなかへ入ってくる。
定着された像が、呼吸をはじめる。
色と影がふたたび、空間のなかへ滲み出してゆく。
“時の雰囲気” や“時代の精神” という言い方は、
写真が生まれた世紀と結びついているだろう。
パリやベルリンを舞台に沸き起こった大衆社会を背景にして、
スピリットを代弁するモードやスタイルが語られる時代、
写真もその中核をになった表現だった。
同じことが21世紀にも言えるかどうかとなると、意見は分かれるだろう。
時代に共通するようなエスプリやガイストはあるのだろうか。
仮にそうだとして、表現のみならず技術的にも多様化した写真のなかに、
それはどのように姿を現すのだろうか。
放射能という、直接目には見えないものが日本の大気を覆い、
世界中の空へと拡散している時代。誰しもが今日の空気について考えざるをえないという、
異常が日常化した時代。あらかじめ調整されてしまった空気、コンディションド・エアー。
だがそんな日常を成り立たせている条件を、写真は独自のやり方で再調整するのだ。
空気のなかへ溶け込んだ精神はきっと、それぞれの色と影をとおして現れてくるだろう。
港千尋