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松之木香衣『Y』

  • 数人の女性の身体から採取した陰毛の形状を布に刺繍して、それぞれの女性の身長に合わせて展示するインスタレーションと写真、さらに衣服へと展開した作品郡。女性である作者は、それぞれの陰毛の個体差に着目してこのような表現方法に至った。
    女性の陰毛は、これまで性的な対象としてだけでなく、お守りや崇拝の対象として、つまり神秘的な女性信仰の対象と見なされてきた。しかし身体を扱う様々な芸術表現の歴史において、これまで陰毛は表象化されないままの(されにくい)対象であった。女性の裸体を描いた絵画に、はっきりと陰毛が描かれはじめたのは19世紀後半といわれる。日本ではいわゆるヘアーヌードの解禁から、わずか20年しか経過していない。
    身体の表面に残された、いまだ手つかずの最後の身体表現の領域である陰毛の表象に、作者は独創的なアプローチで、ひとり踏み込んでいった。白い布に黒々とした糸で縫い付けられた勢いのあるウェーブは、モデルとなった持ち主たちを想起させる。それらは墨の濃淡で描かれた山水画や風になびく草原を描いた絵画などを見るのと同じく、自然が創り出した美しい風景のひとつに他ならない。
    霊長類の中で人類だけ、体毛のほとんどが薄くなっているのに、陰毛だけが残ってしまった理由はいまだに解明されていない。神秘的な対象とされる陰毛は人間の身体に残された原初的な野性の痕跡であり、さらに秘密の花園は21世紀の情報芸術の領域のひとつである。(准教授・佐々木成明)
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