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吉岡裕記『Water Lilly』

  • 幼少の自分を祖父が写した1枚の写真。遊園地のメリーゴーランドの馬に跨りカメラに視線を向けているのは確かに自分なのだが、その記憶は曖昧だ。回転木馬の手触り、豪華なメリーゴーランドが映り込んで揺れる水面。その日のことは明確に思い出せないが、おぼろげな記憶は確かに残っている。作者はこの1枚の写真を手がかりに1年の時間を費やして、ワークインプログレス的にインスタレーション作品を制作した。実物大の馬、黒い水面に映る光、黒い旗、巨大な音響。何回も繰り返し作り換えされていった作品には、様々な要素が現れては消えていった。押しよせては消えていく記憶の波に捉え所はないが、想像の源でもある記憶によって、新しい創造は生み出されていく。まるでおもちゃ箱をひっくり返したような物量で、作者は巨大な箱庭を幾度となく作り直していった。明確に固定化するのではなく、転生を繰り返す記憶が、そのように表された。吉岡の記憶と創造の術で、ここにしかない空間が生成された。
    (准教授・佐々木成明)